川口成彦 フォルテピアノ・リサイタル:ショパンが聴いていた19世紀の音を聴きに行く

・ショパンが弾いていた、聴いていただろう音を聞きたくて。

19世紀当時の楽器「ピリオド楽器(古楽器)“フォルテピアノ”」。
この音でショパンやリストを始め、偉大な作曲家たちは数々の美しい曲を作り出していた。
というピアノの音色を一度は聴いてみたかったので、フォルテピアノによるコンサートに行ってきた。

演奏者の川口成彦さんは、第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールで第2位、ブルージュ国際古楽コンクール・フォルテピアノ部門最高位を受賞。
日本での若手ピリオド楽器演奏の第一人者である。

使用する楽器は1843年製のプレイエルというフランス製のフォルテピアノ。長さは205cm。
ステージ近くに行き間近で見ると、普段現代のピアノのフルコンサート用のサイズ約275cmを見慣れているためかとても小さくかわいらしく感じ、約500席の大きくはないが小さくもないこのホールでどんな音を奏でるのだろうかと、演奏開始がますます楽しみになってきた。

当時のピアノは作られた地域によっても音色が大きく違ったそう。
ショパンは色々な音色の中でも特にこのプレイエルの音色を気に入り、作曲をしていたという。
とても繊細なプレイエルは、ショパンが「体調が悪い時はプレイエルは弾けない」と言っていたほど、体調や心の状態が指先から鍵盤へダイレクトに伝わる楽器だったらしい。
サロンのような小さな場所で弾くことを好んだというショパンにとって、プレイエルはショパンが奏でたい音に寄り添う楽器だったんだろうな。
演奏の合間の川口さんの解説を聴きながら、当時の音を聴く豊かな時間を過ごした。

・プレイエル1843年製の音。

プレイエルの音はピアノからふわっとあふれ出し、さらさらとステージから客席に流れて足元から音に包まれていく。
その感覚を感じて、普段聴いている現代のピアノは音が天井に向かって広がり、天井から降り注いでくる感じだったんだわ、ということを発見した。
あくまで私の感覚だけど。

音は最初は響いていないように感じたのが、耳が慣れてくるとなぜかかなりクリアに聴こえてくる、そして同じ曲でも現代のピアノでは聴こえてこなかったというか聞き流していただろう音がしっかりと聴こえてくる。
でもこれは楽器というよりかは川口さんの奏でる音がそうなんだよね。きっと。

・当時、お互いに親交があった偉大な作曲家たちの関係を知ることができる選曲でした。素敵。

川口さんが選んだ今回の曲は、
ショパン(1810-1849)と同世代の作曲家、シューマン(1810-1856)、メンデルスゾーン(1809-1847)、アルカン(1813-1888)、リスト(1811-1886)の作品達。

川口さんによれば、みなそれぞれに親交があり、特にアルカンはショパン亡き後、ショパンの弟子たちを引き取り、リストはショパンをとても尊敬し、ショパンに関する伝記も書いているということだ。

今回聴いたリストの「華麗なマズルカ イ長調S.221」はあの超絶技巧のリストがマズルカを?と知識があまりない私は驚いたのだが、この曲がショパンが亡くなった翌年、1850年に作曲されたと思えば、数多くのマズルカを作曲した尊敬してやまないショパンへのオマージュに他ならないよね。

それにしても当時はこんなにも素敵な曲をしかも作曲家たちの生演奏で聴き放題・・・?という事だろうか。羨ましすぎる。

【プログラム】

シューマン:
アラベスク ハ長調 作品18
子供の情景 作品15

メンデルスゾーン:
厳格な変奏曲 ニ短調 作品54

アルカン:
夜想曲 第1番 ロ長調 作品22

リスト:
華麗なマズルカ イ長調 S.221

ショパン:
スケルツォ 第2番 変ロ短調 作品31
華麗な円舞曲(ワルツ 第2番)変イ長調 作品34-1
バラード 第3番 変イ長調 作品47
前奏曲 第15番 変ニ長調 作品28-15〈雨だれ〉

♬アンコール♬
J.S.バッハ(サン=サーンス編曲):無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番 より〈ラルゴ〉
アルカン:《48のモチーフ》 作品63-48 より〈夢の中で〉