高所恐怖症の私を救ってくれたオペラシティコンサートホールのスタッフ

・2階席で聞いてみようと思ったのが悲劇の始まり。

ショパン国際コンクールの優勝者、ブルース・リウの演奏を聞きにいったのに。

先日ピアノのコンサートに行って、1階席に座り2階席を眺めたとき、
去年のあの忌まわしい記憶がフラッシュバック。

元々高い所は怖いなぁ、と少しは思っていたが、
去年、しっかり高所恐怖症を自覚し、
そのせいでピアノのコンサートの前半を全く聴くことができない、いや、
『耳に入ってこない』という残念な事をしてしまった。

去年の話。

一度聴いてみたかった、ステージ両脇の2階席からのピアノの音。
今回その2階最前列、演奏者の背中越しの席を初めて取った。

演奏者はショパン国際コンクールの優勝者、ブルース・リウ。
反田恭平氏が2位を取ったコンクールの覇者だ。
優勝直後初のコンサートが東京で、である。

優勝直後の演奏を聴けるなんて、最高のタイミング。
この席だとどんな音が聴こえるんだろう。指のタッチは?
配信でしか聴けかったブルース・リウの音は?ショパンは?
期待に胸を膨らませて席についたところ、

・そこは予想以上の高さだった(には)。

想像をはるかに超える怖さ。

落ちる。。。。
座席の前の手すりが低過ぎないか?
膝のちょっと上にあるだけだよ。
(注意:高所恐怖症のため、その高さに感じたのかも。実際の高さは思い出せない。)

ひいぃ。

恐怖で足がすくみ、落ちるつもりはないのに
階下に吸い込まれてしまいそうな感覚をおぼえる。
つまり、落ちたくないのに落ちたくなってしまう、という
訳のわからない状況だ。

列の中央の席なので、演奏が始まったら途中退席はもってのほか。
今更「スミマセンスミマセン」と
横の人たちに迷惑をかけて離席する勇気もない。
まして、そんなときに慌ててよろめいて落下したらどうしよう。
ただでさえ吸い込まれそうなのに。

冷や汗をかきながら、両手で座面をつかんで、
目を閉じるか天井を見つめてひたすら前半の演奏が終わるのを待つ。

ブルース・リウの鍵盤を、指の動きを、見ることなんてできない。
演奏を聴くどころではない。

死ぬ死ぬ死ぬ・・・。

となっているうちに前半の演奏が終わってしまった。
もう帰る。これ以上あの席には座れない。
席を立ち、せめてもの思い出に、と
帰る前に2階席の一番後ろに立ってステージを眺めた。

ここだったら安心して聴けたのに。ブルース・リウなのに・・・
立ち見でもいいから聴けないかな・・・

漫画「のだめカンタービレ」で、
主人公の「のだめ」が席がないのに劇場の人に頼み込んで
立見席をゲットしたシーンを思いだし、

出典:二ノ宮知子『のだめカンタービレ』講談社、2007年、17巻138頁

言ってみるだけ・・・と近くにいたスタッフの方に、図々しくも

高所恐怖症で具合が悪くなってしまいました。

帰ろうかと思ったのですが、一番後ろで立って聴くことはできませんか?

・オペラシティコンサートホールのスタッフの対応に感激。

スタッフの方には
「申し訳ありません。立ち見のお席は準備しておりません。」
と当然言われる。

そーですよねー。当然です。図々しいお願いをしてしまいました。
スミマセン。では。すたこらサッサ、と帰ろうとしたら、

ちょっとお待ちください

と声をかけられ、責任者に相談してくださり、

招待客の中で、まだ来ていない人がいる。
後半が始まる間際になってもその招待客が来なければ、その席で聴いてください。
と言ってくれたのだ。

それはいくらなんでも申し訳ないと断ったのだが、
「せっかくお越しいただいたのですから、ぜひ最後までお聴きになってください」と!

結果、その招待客は現れず、
なんと、席を譲ってもらったのでした。

それで、ブルース・リウのピアノはどうだったの?と
後日友人に聞かれたが

後半も聴けることになった嬉しさと、
地に足がついてほっとしたのと、
ホールのスタッフの方の配慮に感動した気持ちで高揚して、
そこにブルース・リウが合わさって、
フワフワしているうちに終わってしまって、、、
と変な感想に。

でも、なんとも言えない暖かい気持ちで演奏を聴くことができた。

終演後にお礼を言いたかったのだがかなわず
会場を後にしてしまった。
1年も経って今更だが、
オペラシティコンサートホールのスタッフの方々には
感謝で一杯である。

でももう一度、ブルース・リウのピアノを聞きに行かないとね。